読んだこと考えたこと

リモート時代のシマック『都市』|読んだこと考えたこと

都市 (ハヤカワ文庫 SF 205) 作者:クリフォード D.シマック メディア: 文庫 クリフォード・D・シマックの『都市』は1952年に連作短編集としてアメリカで出版された。約70年前の想像力によって生み出されたこの作品は、実のところまさに今読まれるべきもので…

分かりやすさに抗って|大前粟生『私と鰐と妹の部屋』読んだこと考えたこと

大前粟生による奇妙奇天烈な53の短い物語がぼくの心に響くのは、それらの物語が「分からない」ことを受け止めてくれるからだと思う。 奇妙奇天烈な物語というのは、絶景を見たときの感覚と同じものを読者に与えることが多い。表されるもの、目に見える外的な…

なぜ初デートで映画を観にいくのか|アラン・バディウ『愛の世紀』読んだこと考えたこと

恋愛的に気になる人を初めてデート*1に誘うとき、映画を観にいくことが頻繁に選ばれているように感じます。しかし、なぜ映画なのでしょうか。せっかく初めてふたりきりで出かけるのに、大抵の場合2時間ほどは沈黙を強いられる映画を観るという行為がなぜ選ば…

ジャン=リュック・ナンシー『恋愛について』読んだこと考えたこと

どうして人は好きな人に「好きだ」と伝えるのでしょうか。永遠に片想いをしている方が傷付かないでいられるのに。どうして恋人たちは手を繋いで歩くのでしょうか。歩きにくいと思うのですが。そんな風に恋愛に関して分からないことばかりだったぼくはひょん…

栗原康・白石嘉治『文明の恐怖に直面したら読む本』読んだこと考えたこと

本書は政治学者でアナキストの栗原康と仏文学者でアナキストの白石嘉治との対談本である。栗原康は伊藤野枝や一遍上人、大杉栄の伝記で知られ、白石嘉治は以前から大学無償化やベーシックインカムの導入を主張している人物である。そんなふたりの対談本は、…

柿村将彦『隣のずこずこ』読んだこと考えたこと

ハイデガーが言うには、人は自らの死を自覚し、死までの期間を自分の使命を全うすることに費やす決意をすることで実存の本来性に目覚めることができるらしい。そして、死への存在として自分の道を生きていくことが大切であるらしい。自覚の仕方にも色々とあ…

九螺ささら『神様の住所』読んだこと考えたこと

以前、寺山修司の対談集を読んでいたら寺山が頻繁に、作者は世界の半分を提示し読者が半分を想像力で補完して世界の円環構造が完成するような短歌が一番良い、というようなことを述べていた。同じ対談集で寺山は、人間は不連続で部分的な存在であると述べて…

大前粟生『回転草』読んだこと考えたこと

突然ですが、あなたは小説を読む際にその場面その状況が視覚的に頭の中に浮かぶタイプですか?ぼくは残念ながらそのような想像力には乏しいのですが、そのような想像力が豊かな方にぜひ読んでもらいたい本があります。大前粟生『回転草』(書肆侃侃房)です…